「八月のまつり」寺嶋陸也さんインタビュー第3回

公演

8月7日(金)勝どき・第一生命ホールにて「東混・八月のまつり36」がありました。
「八月のまつり」は、林光作曲「原爆小景(詩・原民喜)」 の演奏を柱としたコンサートシリーズです。
「まつり」に長くたずさわり、委嘱曲の作曲、そして指揮とピアノを引き受けてくださった寺嶋陸也さんに、練習の合間をぬって、いろいろお話をうかがいました。
コンサートはすでに終わってしまいましたが、「八月のまつり」を振り返りましょう。
寺嶋さんインタビュー第3回は、作曲家からみた東混の傾向。

*寺嶋作品は一筋縄ではいかない?*

寺嶋(以下 寺):前にまつりで取り上げていただいた曲に「イグナシオ・サンチェス・メヒーアスを弔う歌」(カワイ出版「八月のまつり27(2006年)」にて演奏)がありました。全体が2群に分かれる曲があったんですよね。
高橋(以下 高):それがすごくおもしろい音がして。第一生命ホールは音響がとても良いので、2群に分かれると効果的で、よく覚えています。
寺:あれは長い曲で4曲から成る曲集で。
高:難しかったんですけど。
寺:光さんも私もロルカ(フェデリコ・ガルシア・ロルカ スペインの詩人1898~1936)がすごく好きだったんで、ロルカでまとまった曲を作ったときはいつも光さんが取り上げてくださって、その時で4作目くらいだったんですよね。

高:譜読みの段階でとっても難しくて。私は内声(アルト)なので、和音がどういう風に、ここでどういう役割でどうなるのかっていうのがつかめるまでが、結構譜読みが難しい部分があったんです。でも歌えば歌うほど、また歌いたい、どうやって歌おうかっていう風にわかってきて。寺嶋さんの曲はどの曲をやっても何回歌っていっても発見があって。今度はどう歌おうかって私はそういつも思っていて。
寺:それいろんなところで言われるんです。とにかく「難しい難しい」って。

高:難しいだけじゃない歌い甲斐というものがあって。なので、何回でもっていう感じで。そういえばあの曲もあれっきりやってない。
寺:あれっきり、誰も(笑)
高:たぶんどなたも手を付けられないんじゃないですかね。
寺:とっかかりがね、とにかく悪いから。こないだもある曲が出版されて。我ながらね、手で書いた楽譜はまだいいんですけれども、出版された楽譜見るとね、四分音符ばっかり、こう並んでたりするっていう景色で。これを見て歌おうと思う人はほとんどいないんじゃないか、と自分でも思う部分があって(笑)

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*寺嶋さんから見た東混委嘱作曲家の傾向*
好田(以下 好):歌詞とかも、いわゆるアマチュア向けっていうのより難しめのを選ばれますよね。
寺:そうですね。今アマチュア向けっていうのかわかんないけども、つまらない合唱曲っていうのがいっぱいはびこっているから(笑)そういうのに背を向けて。
高:新実(徳英)先生も本に書いてらっしゃいますけど、日本では人口的に、合唱ってアマチュアのものっていうのが。
寺:僕もね、それはそうだと思うんですよ。

高:東混としてはなかなか難しくて。だから立場的にもどうしたらいいんだって、私いつも考えていて。
寺:やっぱりね、それは、たぶんバッハとかの時代を考えてもアマチュアの人中心に発達してきたジャンルではあると思うんですけど。ただ、日本の合唱がこんなに盛んになってるっていうのが、やっぱり東混がずっと引っ張ってきたからでもあるし、それは今でもそうだと思いますね。それで先日六花亭に行ったときも、あれはすごい楽しかったんですけど(7月25、26日札幌六花亭ふきのとうホール)、前衛的な曲をやっていくってことももちろん大切ですけども、いろんな地方に出かけていって歌って、お客さんもすごく喜んでくれている、そういう東混の活動って作曲家には逆にあんまり知られてないのかな?っていう気もするんです。まあそれを作曲家にアピールしてもしょうがない気もするんですけど、僕はそういう部分で東混とはお付き合いさせていただいてきていて…。「まつり」がほとんどでしたけれども、光さんがやるときとかに、お客さんがすごく喜ぶ様子とか見ているので、そういう東混にすごくシンパシーを感じていますし、ご一緒させていただけるのが嬉しいです。

好:作曲の方ってメロディーが浮かんでくると思うんですけども、言葉っていう制約を好んで使うのとかあるんですか?林先生はこんにゃく座やられてたり、言葉とか物語とかを持って作曲されるのが多かったと思うんですが。
寺:それは作曲家のタイプによっていろいろで、今までの東混の委嘱作曲家を見ると、そういうタイプ(言葉付き)の作曲家に新しい曲を頼むっていう方向性ではないんだなっていうのを感じますね。合唱の、今まで聴いたことのないような曲を書くかもしれないという期待で頼んでるんだなあと。言葉がどうこうとかっていうことは古いっていうのがあったり、声でいろんなことをやるってことに音響的な興味を持ってるタイプの作曲家に依頼するほうが多いですよね。そういう曲は、歌うほうは大変だろうとは思いますけれども。

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*寺嶋さんと「八月のまつり」*
寺:実は私は、第1回のまつりを聴いているんです。東京文化会館の小ホールで、「原爆小景」と「この道」や「かやの木山」とかが初演だったと思うんですが。その時、高校生だったんですけれども、その後もほとんど毎年聴きに行っていて。聴きにも行けず出演もできなかったっていうのは今までで確か、2回だけありました。1回は岩城さんが出演なさった時に、その時はどうしても聴きに行けなくて、もう1回ぐらい聴きに行けなかった年があったんですけれども。まあ、聴いているか出演しているかのどっちかで。それで出演もずいぶん早い時期に、まだ大学生だった頃から光さんが呼んでくださって。私の曲を、特に最初の頃はよく光さんが振って演奏してくださっていたので、その時はまだまだ作曲家としても駆け出しか、駆け出し以前ぐらいの感じだったのですが、大変あたたかかく背中を押してくださったと思っています。光さんがお亡くなりになってから「八月のまつり」も今回で4回目になりますけれども、東混がこれをずっと続けていこうとなさっていることが、僕にとってはなによりも心強いと思っています。

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(2005年8月6日(土)広島アステールプラザ(大ホール)「八月のまつり2005in広島」の舞台上/撮影:好田真理)

好:ありがとうございます。「原爆小景」を歌いつなぐことは東混の大切な活動のひとつなので、これからも続けていけるよう、頑張りたいです。
高:お忙しい中インタビューご協力、どうもありがとうございました。
寺:ありがとうございました。
<終>


インタビューを終えて(好田真理)
「八月のまつり」を中心に寺嶋さんとはよくお仕事ご一緒させていただいていましたが、普段は主にピアニスト、作曲家としてお会いしておりました。
普段のリハーサルでは曲のこと以外ではあまりお話しする機会もありませんでしたので、今回のインタビューは新鮮で、楽しくお話させていただきました。
美しくも芯のある、とっても素敵なピアノを弾かれる寺嶋さん。インタビューを通してお人柄がより深く感じられ、寺嶋さんの曲とピアノの音色の深みにもより気づくことができた気がします。大変貴重な時間をどうもありがとうございました。

第2回、第3回の記事内の写真撮影:渡邉隆寛

寺嶋陸也さんのホームページ
http://www.gregorio.jp/terashima/

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