時代と共に変容する”交響詩《フィンランディア》”

日常


ソプラノ

奥山陽子

〈8月タンペレの景色〉

皆様こんにちは!
最近は暑いと感じる日もあるほど暖かくなってきましたね!春の到来が思いっきり感じられる季節です。「春」がタイトルに使われている曲はどこか悲しさや切なさが見え隠れする歌詞が多い気がしますが、最近は明るい曲が似合うような日が多くなってきました!
さて、今回はシベリウスの代表作と言っても過言ではない”交響詩《フィンランディア》”のお話を致しましょう。
え?ブログのネタ、またフィンランド?!すみません💦お許しください…💦
数年前、私はとあるフィンランド語教室に通っていました。ある時、先生(フィンランド人)が、「フィンランディアの合唱のところはフィンランド人はあんまり歌わないよ。」と言いました。私はエッ?と思いました。《フィンランディア》はフィンランド人にとって大切な曲なんじやないの?!

〈8月 セウラサーリの景色〉

シベリウス作曲”交響詩《フィンランディア》”は、もともとは《報道の日のための音楽》の7曲目「フィンランドは目覚める」がもとになっています。
曲中にフィンランドの抒情詩「カレワラ」の特徴である5拍子を感じるこの曲は、劇音楽としての初演が1899年11月ヘルシンキのスウェーデン劇場にて、交響詩としては1900年パリで行われた万国博覧会で初演されています。その時のタイトルは《Suomi(フィンランドの意味)》。このタイトルはドイツでは《Vaterland(祖国)》、フランスでは《La Patri(祖国)》、エストニア、ラトビアでは《即興曲》と名前を変え演奏されていく運命にありました。
シベリウス34歳から35歳の時期。

〈8月 セウラサーリの景色〉

《フィンランディア》の合唱の部分は男声合唱のための作品である《目覚めよ、フィンランド》の影響が強いと言われています。作曲者はシベリウスが通っていたハメーンリンナの学校の教師であり作曲家のエミル・ゲネツでした。学生時代シベリウスはこの曲に対してどんな想いを抱いていたのでしょうか。
ロシアとスウェーデンの狭間にあり、他国からの支配が厳しくなってきた19世紀後半。その支配の厳しさに反してフィンランド人の愛国心に火がつき、愛国の合唱曲、歴史を描く演劇、絵画、文学などの創造が盛んになっていきました。《フィンランディア》もまた、そのような時期に生まれた曲でした。
そんな時期に生まれた《フィンランディア》ですが、シベリウス自身は政治的な意味を意図したものではないと何度も主張しています。ところがそんなシベリウスの主張とは逆にこの曲は、”フィンランド人の独立心を奮い立たせる曲だ”としてロシアから厳しい視線を向けられ、ついには演奏禁止にまで至ります。
また合唱部分の歌詞の事ですが、現在も使われている歌詞はV・Aコンスケンニエミ作詞のもので、1939年に登場したと言われています。内容としては祖国の自然や祖国の強さを語り、輝かしい未来を希望するような力強い詩です。
実は《フィンランディア》の歌詞は複数あり、中には賛美歌としてアメリカに広く親しまれている歌詞もあります。

このようなフィンランドにとって大切な曲を歌うことに対してなぜ迷うのか?
フィンランドで学んだ先生に聞いたことがありました。
その答えは、戦争を思い出すからという事でした。
独立の戦いはもちろんの事、フィンランドはせっかく独立したのにその後内戦が起こりました。その経験をしている人は記憶を甦らせる《フィンランディア》をあまり好ましく思っていなかった。この事は後の人にも引き継がれ、影響を与えているようです。ある程度の歳を重ねているフィンランド人の心の中には内戦が起こったという事に対して情けないというような気持ちがあると言われています。しかしこの曲について外国人が合唱を歌う事には抵抗は少ないようです。
私は以前一緒に仕事していた20代のフィンランド人に聞きました。
「○○(名前)は、《フィンランディア》を歌う事についてどう思う?」
彼女は「確かに《フィンランディア》は年齢を重ねた人々はあまり歌わない。でも私達はそんなに抵抗がなくなっている。これからの文化があると思っている。」
その彼女の言葉を聞いて私は答えが見えたような気がしました。最近ではフィンランド国営放送でも《フィンランディア》を演奏する際は合唱付きで演奏されています。

〈8月 ポルボーの景色〉

忘れてはいけない事がある。
けれどもそれを乗り越えて時代と共に新しい文化に変容させていく。
今からおよそ100年前に他国の支配にあったフィンランドという国をそして民族の存在を知らしめた《フィンランディア》の音楽の力はこれからも変容しながら大切なメッセージを送っていくのだろうと私は思っています。

参考文献
松原千振 著
『ジャン・シベリウス 交響曲でたどる生涯』
新田ユリ 著
『ポポヨラの調べ指揮者がいざなう北欧音楽の森』
写真提供: Yuta Sakurai



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