バス
佐々木武彦
2002年のカナダ遠征での出来事。
前年の「911」アメリカ同時多発テロの影響で、
カナダ国内でも各空港は厳戒態勢。
そのため手荷物検査の際にパソコンは起動確認をされると聞いていたのだが、
他にも電子辞書やデジカメといった電子機器はもちろん、
何と「音叉」まで引っかかり、係員とすったもんだするメンバーも。
私もバンクーバー国際空港では電子辞書の起動確認を求められた。
「これはパソコンか?」
「電子辞書です」
「起動させて下さい」
まあこの状況下ではいたって普通のやり取り。
ところがカルガリー国際空港では違った。
「荷物を全部カバンから出しなさい」
へっ?
バンクーバーでは電子辞書だけだったのに…
しかもその電子辞書は完全スルー。
荷物をカバンから出したところで、
「これは何?」
と検査官が指さした物。
それは
「マラカス」
トロントでの公演で使う為、
預かっていたマラカスが何故か引っかかってしまったのだ。
「これは打楽器の一種です」
「お前は打楽器奏者か?」
「私は声楽家です」
「再検査するからそれを渡しなさい」
私はマラカスの玉の部分を持ち、
検査官に柄の部分を差し出した。
(まるで、福田和子逮捕の再現フィルムのように…)
すると
事もあろうかその検査官は、
マラカスをシャカシャカ振りながら検査器に向かって行くではないか!
おいおい!
それ、不信物だからチェックしたんじゃないのか!
(どう見てもフツーのマラカスだけど)
しかも鼻歌まじりに腰まで振ってるし。
万が一爆発したらとか思わないのか!
(絶対しないけどね)
そんな思いが頭の中をグルグルと駆け回っているうちに、
何事も無く再検査終了。
すると検査官
「ハ~イ、OK!」
と言わんばかりの笑顔でマラカスを私に返すと、
何事もなかったかのようにその場からいなくなった。
そして残された私は、朝ホテルで一生懸命詰めたにもかかわらず、
この場で全部広げた荷物を再度カバンに戻す作業を、
一人黙々と続けたのである。
一足先に検査場を通過していた添乗員さんと同僚のK君が
心配して何が引っかかったのか尋ねてきたので、
一連の出来事を説明すると一同大爆笑。
特に添乗員さんのウケっぷりはハンパなく、
数分後にはメンバー全員に知れ渡る事となった。
コメント