くちびるに歌を

楽曲案内

くちびるに歌を

テノール

志村一繁

さてさて、3人のコンマスで繋いできましたこのブログリレーも、今回でいよいよ最終回です。
ラストを飾るのは信長貴富さん作曲「くちびるに歌を」。

今年で3回目を迎える「コン・コン・コンサート」。毎年この曲でコンサートを締めくくるのが恒例となってきました。

信長さんについては今さら説明の必要もない、合唱作曲界のエースですね!
本人が合唱を長く歌っていたこともあり、歌う側の生理的欲求をよく理解されているって感じ。なんかこう琴線に触れてくるのがうまいんですよね~。

全4曲からなる曲集「くちびるに歌を」。ドイツ語と日本語が交互にあるいは並走して歌われる、数ある合唱曲の中でも珍しい形式です。
4曲とも全て違う詩人による詩に対し、そこから受けたインスピレーションにより信長さん独自の構成が加わって作曲されたそうです。

特に顕著なのが表題曲であり終曲でもある「くちびるに歌を」。

ツェーザー・フライシュレンによる元々の詩の題名は
「心に太陽を持て」
曲中にも出てくるこの言葉。しかしこの言葉に相当する
「Hab’ Sonne im Herzen」
ドイツ語のこの部分を信長さんは作曲していません。
曲集を持っていらっしゃる方は巻末の歌詞を見てください。ドイツ語に関しては、3部構成の詩の真ん中の部分にのみ作曲されています。

これこそが信長さんの仰っている、詩からのインスピレーションによる作曲なのではないでしょうか?

7分半にもおよぶ長大な一曲ですが、ユニゾンで「Hab’ ein Lied」と歌い始めた瞬間から「ザ・信長ワールド」に引き込まれます。
前奏もユニゾンから、歌もユニゾンからスタート。
信長さんに限らず作曲家がよく使う手法ではあります。
ユニゾンをいかに美しくアンサンブルさせるか?この曲に限らず合唱の醍醐味の一つですね。

集まって歌えない時にZoom等のリモートでアンサンブルを試された方もたくさんいらっしゃると思います。
私も色んな曲にトライしてみましたが、これが難しかった!・・・というより完全に合わせるのは無理でした。
ピタッと合ったユニゾンを聴くだけでも、会場にいらっしゃる意味はあると思いますよ。

22小節テノールの「den einsamsten Tag !」
上行していくのにdiminuendo。そして「Tag!」を [p] で <>アクセント。
自分がテノールということもあり、ここは注目して聴いてもらいたいとこ!

日本語が始まる29小節 Auftagt からの「♪くちびるに〜うたを持て」。
元来は男声合唱用に書かれた曲集ということもあり、混声合唱版でもここは男声に花を持たせてくださいました。
このユニゾンはバスがいてこその音域。
そしてテノールのオクターブの跳躍。
さらにアルト、ソプラノと続くのだけど、ソプラノには一節ドイツ語を歌わせるとは、信長さんのにくい演出!

その後の両外声(ソプラノ・バス)による掛け合いも聴きどころですよ。
「鉄道組曲」の時にも言いましたが、外声の動きが面白いと、仲を取りもって歌っているアルト・テノールが楽しくなってくるんですよね~。

そうそう、信長さんの曲の特徴としてダイナミックレンジの広さがあげられます。
この曲もご多分にもれず最後は[fff]で、しかもPesanteで終わります。
しかし、そのダイナミックレンジの広さを活かすためには[p]や[pp]をいかに歌うかにかかってきます。

またテノールの話になってしまうのですが、66小節からのパートSoloの [p] がどのように表現されるか?
それに続くTuttiの [pp] にどうつながっていくのか?
ここは割愛された原文の最初の部分が、訳して挿入されています。

本来これに続くのは「心に太陽を持て」なのですが、信長さんは
「Hab’ ein Lied auf den Lippen」
冒頭の再現として「くちびるに歌を持て」と繰り返します、今度は[pp]で。

東混でこの曲は何度も歌ってきました。また自分が指導している合唱団でも演奏したことがあります。
その度に、この[pp]でのア・カペラを聴かせるためにこの曲を作ったのではないか?と感じてきました。静謐さと同時に襟を正して歌に向き合わなければ、という気持ちにさせられるのです。

そこからの再現部、そしてラストのPesanteに向かって怒涛のラッシュで駆け上がります!

「くちびるに歌を持て」

我々歌い手にとって、あまりにも印象的なこの言葉。
プロとして歌を生業とする東京混声合唱団。
しかし人前で歌うことの許されなかったこの5ヶ月間。
今ほどこの言葉が胸に刺さった時はありません。

信長さんが敢えて題名を、そして歌い始めの第一声をこの言葉にした意味。それを噛み締めて、しかし悲愴にならず前を向いて、くちびるに歌をのせられる喜びを、歌を愛する皆様と共に歌いたいと思います。


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