楽曲案内

山口龍彦作曲「骨」


テノール

志村一繁


合唱をやっている者、アンサンブルすることを楽しんで頑張ってきた者にとって、今年は絶対に忘れられない年になってしまいました。
NHK全国学校音楽コンクール・全日本合唱コンクール、この2つ共が中止になる時がくるなんて、今まで想像だにしていませんでした。

私の音楽歴は合唱から始まっています。
中学の時に、最初は剣道部と兼任していたのですが、だんだん歌うことが楽しくなり、高校でも合唱部、そして大学は音大を受験するに到りました。
あの中学・高校時代の合唱部での活動がなかったら、東混にいる今の私はいなかったかもしれません。

その東混においてこの2年間、Nコン・全日本の課題曲を演奏するコンサートを開催してきました。
今年も5月に開催する予定でしたが、昨今の事情により延期せざるを得なくなりました。

ですが、このまま合唱の火を絶やしてはならない!今まで頑張ってきた若者に何かエールを送れないか?
その想いから、昨年までの課題曲を中心にした「コン・コン・コンサート2020」を7月31日に開催します。

その中で唯一、今年度の課題曲(になる予定だった曲)を演奏するのですが、それが山口龍彦さん作曲「骨」です。
昨年の朝日音楽賞を受賞された「4つの追憶の曲」。その第2曲にあたります。
中原中也のシンプルでありながら、しかし、いかようにも解釈ができるちょっぴり不思議な詩に、新進気鋭の作曲家・山口龍彦さんがどのような曲をつけたのか!我々ならずとも興味の涌くところではないでしょうか?

音楽も詩に負けずなかなかの難曲です。
ご本人曰く「序盤の旋律はC durのブルーススケールに近いものになっている」とのこと。EからEsに交互に変化していくあたり、なるほど確かにクラシカルとは違う香りがする旋律に、変拍子が加わって独特な世界を作っています。
「ヌックと出た、骨の尖」は印象的な言葉を活かしたリズム・音程になっていますね。

逆に「それは光沢もない、ただいたずらに」からは、縦のラインがガッチリと噛み合っていて、今や風景となってしまった(骨)を、冷静に見つめているようにも感じられます。
その間に効果的に出てくる休符が、ちょっとしたおもしろさを付加している要素かも!?

山口さんが全日本の作曲にトライしたのは今回が初めてではなく、実は過去に3回チャレンジしているとのことでした。
その反省を踏まえてあらためて猛勉強され(それもかなり綿密な計画の元に)、4回目にして受賞に繋がったのだそうです!
我々は出来上がってきた楽譜しか目にすることは出来ません。その背景にどのような葛藤があったのか、それを想像するのも音楽を奏でる楽しみの一つですね。

中間部でテンポが変わります。生前の記憶の断片とでも言いますか、なにげない風景が描かれます。
リズムや音程は難しい箇所なのですが、逆に拍子は3/4と4/4しか使われていません。このシンプルさがおもしろくもあり、粗が見えてしまう怖いところでもあります。
こういうところは16分音符等の細かい音をしっかり演奏することが大切になります。それこそ一つの音も蔑ろにすることは出来ません。
70小節からのア・カペラは、合唱団の聴かせどころです。
77小節からのAlt.とTen.の掛け合いも気に入っているところの一つです。

いよいよ終盤。92小節からは難解なピアノ協奏曲をイメージして作曲されたとのことです。イメージした曲とは果たして何だろう?と想像してみてください。そう思って演奏してみると、歌とピアノとの絡みのおもしろさ、ラストに向かっての疾走感・切迫感が出るように思われます。
「しらじらと」という言葉も、人によって色んな解釈・表現が出来そうですね。

そういえば何年か前の東混の仕事で、中也の出生地である山口県湯田温泉に行ったことがありました。
その時に立ち寄った中原中也記念館。
「汚れつちまつた悲しみに」等の有名な歌碑はありましたが、残念ながら「骨」は見つけられなかったんです。
それでもこの独特の音律が、中也を代表する詩であるのは間違いありません。
山口さんもその辺りに惹かれてこの詩を選んだのかなぁ?と思っていたら、どうやら詩を選んだのは奥様なのだそうですよ!ちょっと意外でした。

練習が進むにつれ、音程等の難しい曲という以上に、中也の詩のようにどんどん景色が変わっていく面白さが感じられてきました。
ステージで楽しんで歌えるように頑張ります。





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