ひげくまたいちょうの旅日記 その1 佐世保市・地下街のちゃんぽん

Takehiko SASAKI

バス
佐々木武彦
(ひげくまたいちょう)

佐世保へは毎年のように行っていた。
長崎県の行事で秋に県内2~3カ所をまわるのだが、
その宿泊地が佐世保という事が多かったのだ。

佐世保にはお楽しみがあった。

当時、駅前からバスターミナル側に向かう地下道に、
飲食店を中心にお店が数軒並んでいて、
その中のちゃんぽん屋に行くのが毎度の楽しみだった。

朝からちゃんぽんをすすり、
昼は皿うどん、夜はソースカツ丼。
何年もの間、他の店で食事をした記憶がない。

洋食出身のオヤジさんにはこだわりがあった。
「他の店は中華鍋を使ってるけど、オレはフライパンを使うのさ」
よく見るとオヤジさんは洋食屋のシェフ用のシャツを着ている。
洋食の道で修行したオヤジさんが今ちゃんぽん屋の主人になっているのには
それなりの理由があるのだろう。
それでも洋食へのこだわりは捨て切れなかったのだとか。

「だからメニューにソースカツ丼とかカレーも加えてるんだよ」

ちょっと強面で普段は口数の少ないオヤジさんが、
その日はニコニコしながらそんな話をしてくれた。

5~6年続けて訪れた後、しばらく行く機会がなくて、
おそらく10年近くご無沙汰してしまっただろうか。
久しぶりに佐世保駅に降り立って驚いた。
駅が高架化されて駅前が再開発されていたのだ。
そして外に出て駅前広場に立って呆然とした。

地下街が無くなっていたのだ。

カウンターに座って、オヤジさんがこだわりのフライパンで作るちゃんぽんを食べる。
それが夢と消えてしまったのか?

半ばあきらめムードでガード沿いに目をやると、
「ろくてん通り」という見慣れない表示が。
何やら名前の由来が書かれていたので、読んでみると、
「佐世保駅前再開発で閉鎖された地下街から6店がここに移転した」
とあるではないか。

えっ、ということは

はやる気持ちを抑えて「ろくてん通り」へ向かうと、
そこには見慣れた暖簾が下がっていた。
中を覗くとオヤジさんが相変わらずの格好でフライパンを振っている。
メニューもそのままだ。
佐世保での居場所が残っていてホッとひと安心した。
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それから更に数年経ち、厨房にはおかみさんと若いお兄ちゃんが立っている。
オヤジさんがどうしたのか気にはなるのだが、
とりあえず聞かずにいる。
お兄ちゃんもフライパンでちゃんぽんを作っているのを見て、
オヤジさんのこだわりは引き継がれているのだと思ったから。

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